個人事業主に対する税務調査とは・・・実際に税務調査を行った私が体験談をお話します。

はじめに

私が税務署に勤めていたのは、もう20年以上も前の話です。
その頃の税務署にはフロワーに一台しかコンピュータはありませんでした。
当時税務署ではタバコが吸い放題だったため、そのコンピュータはヤニ色に変色していました。
コンピュータはヤニには思ったより耐性があるみたいです。

こんな時代の話なので、今の税務調査はちょっと状況が違うかもしれません。
しかし、私が税務署に勤めていたと話すと、皆さん興味があるようで税務調査ってどんな感じなのか知りたがります。
そこで当たり障りがない程度のことを書いていきたいと思います。

個人事業主の税務調査はいつ行われるのか

個人事業主の税務調査は時期が大体決まっています。
それは、個人事業主は2月16日から3月15日までに確定申告をする必要があるからです。

還付申告でしたら1月中から受け付けており、確定申告書をチェックして、名寄せしてファイリングをするのに確定申告期限から一か月くらいかかります。

その後、事後処理といって、申告書をみて簡単に分かる間違いを修正してもらうため、納税者をお呼びするのに一か月くらいかかります。
つまり、6月から12月くらいまでの間に税務調査が行われることになります。

このスケジュールは管轄にどれくらいの納税者がいるかにより変わってきます。
納税者が少ない管轄の税務署では、その分事務作業が少ないため、税務調査にあてることができる期間が多くなります。

どのように調査対象者を選ぶのか

これは気になる方が多いと思いますが、私にはよく分かりません。
私は税務署で勤めた経験は5年ほどになりますが、これくらいのペーペーだと自分で調査対象者を選ぶことはありません。

調査対象者は、普通7人くらいの島のトップである統括官という役職の方が選定します。
統括官は、一般の会社でいうと、大きな会社では課長、小さな会社では部長というイメージの役職になります。
この統括官が、納税者ごとに用意されたファイルに入っている資料と申告書をにらみながら、部下の税務職員の経験や能力を考えながら割り当てていくわけです。

自分で選んだことは無いのですが、まずはある程度の所得を申告している納税者が対象になることは間違いないと思います。
赤字の申告を提出している納税者が、本当は黒字だったというケースはあるかもしれませんが、普通は赤字の事業者はいくら調べても赤字です。
所得が発生していない納税者に所得税を課税することはできません。

一度税務調査をすると3~4年ごとに税務調査をする傾向もあるかな、と思います。
税務調査の対象年度は、通常は3年間分、悪いことをしていると5年間分となることが普通でした。
このことも影響していると思います。

あと、同業者と比較することもあるのではと思います。
同じ商売をしているのに、よその納税者の申告内容をみると所得が伸びているのに、この納税者だけ所得があまり変わらないとなると怪しいと感じるのでは、と思います。

税務調査はどのように始めるのか

まず通常は納税者宅に電話して予約をとります。
現金商売をされている納税者の方の場合、予約をとらずに行く場合もあります。
約束の日の前に一度納税者宅を見に行くことも多いです。
道に迷って約束の時間に遅れたら間抜けな話ですし、当日は準備万端でお出迎えとなるので、いつもの納税者宅の様子も見ておくのも何かの役に立つかもしれないからです。

予約をとってから行っても、大抵奥様が税務調査の対応をする場合が多いです。個人事業主の方は、平日の日中は仕事に出かけているので無理のない話です。
上司からは最初は調査と関係の無い話をして納税者の方と打ち解けろと教わりますが、なかなかうまくいきません。
私が口下手なのもありますが、奥様方は女性とはいえ全ての方が話し好きという訳でもないですし、納税者にとって税務職員はどこまで行っても敵であることに変わりはありませんから。

調査官は何を考えているのか

頃合いをみて事業に関係のある書類を見せてもらいます。
書類をあらかじめ机の上に用意されている方もいらっしゃいます。
しかし、全ての書類がそろっている訳ではないので、「通帳はどこにありますか」とか聞きながら、仕事関係の書類がある場所を把握していきます。

この段階でどれだけ仕事に関係のある書類を集められるかが鍵となります。
予約をしていくので、あらかじめうまく書類を見つからないところに隠してしまう方もいます。
しかし、請求書の控えであったり、見積もりをとってから始める仕事をしている場合は見積書など、仕事をする上でどうしても必要な書類が無いとなるとかなり怪しいと判断する訳です。

ある程度書類を集めたあとで、その書類をチェックしていくと、また本来あるべき書類が無いことに気づきます。
例えば、請求書の控えがあるのに、通帳に代金が振り込まれた跡が無いとなると現金決済があるのではと思います。
そうすると、領収書のみみがないと変な訳です。
なぜならば、こういったものがないと個人事業主の方は、お金を受け取ったのか、受け取っていないのかが分からなくなります。
もう既にお金を受け取ったあとに、もう一度お客さんにお金を請求してしまったら大目玉ですよね。
全てを記憶できる頭のいい方はいませんし、もしそうならば商売替えをした方がよさそうです。

調査官は帳簿をどの程度調べるか

私が税務署に勤めていたのは、まだインターネットが使われていない時代です。
そのため、大分今とは事情が変わっているとは思いますが、当時はノートと鉛筆で帳簿を付けている方が多かったです。
それどころか、青色申告をしているのに帳簿を付けていない方も結構いました。
理由を聞いてみると、青色申告とはどのようなものかも分からなかったが、確定申告時期に税務署に行ったら訳も分からず税務職員に勧められたので、青色申告の申請を出したそうです。

今でしたらエクセルやクラウドの会計サービスを使って複式簿記の帳簿を付けている方も多いと思います。
当時はノートと鉛筆の時代だったので、複式簿記の帳簿などを見せられたら、後光が差しているように見えてまともに見る気にもなれませんでした。

というのは、あんまり帳簿を調べるということをしなかったからです。
法人税の調査ならば、きっちりとした帳簿が用意されているのが普通なので、帳簿の不明点を追うのもいい方法かもしれませんが、個人事業主がそのレベルの帳簿を用意するのは現実的ではありません。

その上、提示された帳簿というのは納税者の方が税務職員に見せるために用意したものです。
そこに、見られては困るような何かが記載されていることはあまり考えられません。

私の同期に税務調査で電卓を使ったことがないという強者がいました。
どのように調査を進めていたのか未だに謎ですが、私と研修を一緒に受けていた時はいつも金が無いと言っていたのに、その後査察で何年も仕事をしているので、使う暇がなく金が貯まってしょうもないとか言っている優れた調査官もいます。

納税者にとっては迷惑この上ない、しかし調査官も・・・

税務調査は、納税者にとっては時間も取られるし、痛い腹はもちろん、痛くもない腹もついでに探られる不愉快極まりないものであるのは間違いないものだと思います。

しかし、税務職員も、中には調査の仕事が好きだからやっているという人間もいるとは思いますが、大抵は仕事だからやっているという人間がほとんどなのではと思います。

私はというと、本当にこの税務調査の仕事が嫌いでした。
だからといって、仕事で結果を残さなかったかというとそうでもなかったです。
しかし、大きな申告漏れを見付けた時も、悪いことをした方を懲らしめたといった感情よりも、よくもこれだけ稼ぐことができたなといった尊敬の念の方が大きかったです。

今ではインターネットを使って個人が大金を稼ぐというのもあり得ない話ではないと思います。
しかし、当時は大半の個人事業主は食べていくのが精いっぱいという感じで、個人事業主をやめてコンビニでアルバイトを始めたらずっとお金が稼げますといった内容のメモが、ある廃業届に書いてあった記憶があります。

こんな事情もあって、私は税務署に勤めている時はずっと「俺って何やっているんだろう・・・」とずっと考えていました。

まとめ

税務調査という誰にとっても不愉快なものを、税務職員の目線から体験談を書いてみました。
申告納税制度で真面目に納税をするものなどいないだろうという感覚はどの国でも同じようで、私がニューヨークで散髪をしていた時に店主と話した時にも、店主が同じことを言っていたのを思い出します。

税務調査が必要だということに誰も異存は持たないと思います。
しかし、申告納税制度が始まってもう何十年もたつのに、この不愉快な状況が何も変わらず続いているのは何なんだろうと思います。

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