大企業の経理で働いていた時、こんなことを感じました

はじめに

アメリカから帰ってきて、そろそろ働き口を探さねばと思っておりました。
私はバブルが弾けた後の就職氷河期に就職活動をしていたので、転職は難しいのではと思っていたのですが、当時NewYork証券取引所に上場を目指していた大きな会社にあまり苦労もなく入ることができました。
そこは、大きな組織としては同じでしたが、税務署とは全然違う職場でした。

日経平均採用銘柄になっている会社に転職しました

主な仕事は経理部門で税務関係の仕事や海外子会社との親子会社間取引の突合などをやっておりました。
おそらく税務署にいたということで税務の仕事が割り当てられたのですが、税務署では所得税部門にいたので法人税については三か月の基礎研修でちょこっと勉強したくらいでした。
さらに、海外子会社を持つ法人税の申告書の作成は難易度が高く、何度も転職した私ですが、この会社くらい複雑な申告書を作っている会社はありませんでした。

そのため、入社してから一年くらいは土日は本を読んで過ごしましたが、勉強が好きだったのか、サラリーマンとはこんなものだと思っていたのか、それほど苦痛には感じませんでした。

勉強したことが役に立つことが新鮮でした

学生の時勉強した会計の知識は、税務署の中ではほとんど役立たずでした。
配属されたのが個人課税部門と言って個人事業主を担当とする部門でしたので、帳簿を付けている方も半分くらいであり、何もないところから所得金額を類推するといった感じの仕事であったためです。

税務署が初めての職場であったために、仕事をする上で学校で学んだことなど役に立たないものだと自分で納得していたのですが、学生時代に勉強した会計の知識をフル活用しないと仕事ができない職場がこの世にあるのかと思ったものです。

税務署の中では、創意工夫をして納税者の申告漏れを指摘することを求められてきましたが、ここでは税法や会計基準といった法律や規則をどのように適用するかを求められることも新鮮でした。
個人事業主を相手にする仕事では、「税法上こうなっているので・・・」と納税者に説明しても「だから何・・・」みたいな感じで、法律がどうのと言った話はあまり意味のないことでした。

一方で、上場しているような大企業では、法律や規則に従っていないことが世間に知れ渡ると、評判や株価にものすごく影響するので真面目に捉える必要があるわけです。
人にもよると思いますが、法律を守ろうという意識がある団体の中で働くのは、ある意味楽なのです。
「こういった法律があるので・・」という話をすれば納得してもらえるからです。

反対に「こういった法律があるので・・」と話した相手が、「だから何・・」という反応が返ってきた場合、「どう説得すればいいのか・・」と考えなければならないからです。
社会人成りたての新人ならば、「訴訟だ」とか「行政処分だ」とかいうかもしれませんが、こういうのは本当に最終手段であり、普通は何とか円満に解決する方法を模索し、解決することを求められるわけです。

隣の人がやっている作業内容が分からないのが新鮮でした

税務署に勤めていた時は、分からないことがあった時は基本的に誰に聞いても適切な答えが返ってきました。
なぜなら、税務署では、同じ部門であれば同じ仕事をしていたからです。

毎年同じ時期に異動の時期があり、同じ税務署に三年いた職員は他所の税務署に転勤になり、いなくなった分だけ他所の税務署から新しい人が入ってきます。
その時引き継ぎの問題は全く生じません。
なぜなら、どこの税務署にいようが同じ仕事をするからです。

この大企業では、分からないことがあった時に周りの人に質問しようとすると、「その仕事やったことが無いから分からない」といった反応が返ってくるわけです。
いろいろ転職を繰り返してきた今では、ごく普通の反応なのですが、当時はめちゃめちゃ違和感がありました。

大企業では仕事が細分化されている理由を考えたことありますか

この理由は「大企業では仕事が細分化されているから」という説明で普通は終わってしまいます。
だけど、仕事が細分化されていても、適当に役割分担をローテーションしていけば、何年か経つとほとんどの仕事が分かる人間が出来上がるわけです。

要するに、役割分担のローテーションができない理由があるのです。
社歴の長い安定した会社ほど、勤続年数の長い社員の方が増えていきます。
「勤続年数が長い」ということは、だんだん年齢が高くなり、新しいことを覚えるのが億劫になってくるのは避けられません。

そこに上場している会社の場合、四半期に一度、決算を開示する必要があります。
ポイントは、この開示する決算は絶対に間違いが許されないという点です。
半端に業務分担を入れ替えて、その結果間違った決算を出したとなれば、株価が下がるのです。
当然、経理部門のトップは責任を取らされて、どこかに異動させられる訳なので、何も考えずに役割分担のローテーションをする訳にはいかない訳です。

証券取引所への上場プロジェクトはどんなものか

この大企業では、当時NewYork証券取引所に上場するプロジェクトを組んでおり、私も一応そのメンバーに加えてもらっていました。
私も米基準での開示に必要な注記などを作っておりましたが、何となく「あまりお役に立てていないのでは・・」と思っていました。

一応米国公認会計士試験に合格していたので、他の人達よりは知識があるのではと思っていたのですが、どういう立場の人なのか分かりませんがNewYorkの監査法人の方が事務所に詰めて何やら作業をしており、何か分からなければこの方に聞けばいいといった状態でした。

要するに、法務的な観点であれば弁護士の方に仕事をお願いしており、会計的な観点であれば会計士の方に聞けばいいし、社員側にあまり専門知識が無くてもプロジェクトは進んでいくという状態なのです。

しかし、社員側にもメンバーが絶対に必要がありまして、その理由とは会社のことについてよく知っている人材が必要ということです。
「会社のことについてよく知っている」と聞くと「何を当たり前のことを・・」と思われる方がいると思います。
しかし、大きな企業になればなるほど、「会社のことについてよく知っている」人間が限られてくるのです。

株式の上場とは社員にとってはどういうことなのか

どういうことかと言うと、大きな会社であればあるほど、会社の中でいろいろな事業が行われている訳です。
普通の社員は自分のやっている仕事の内容は分かりますが、隣の部屋で何をやっているかなど全然知りません。
経理のような管理部門であれば、知っている事業の範囲が多少は広がりますが、「ここで何やっているんだろう・・」と思う事業もよくあります。

このような時、自分が聞いたこともないような事業について弁護士さんなどに聞かれた時、会社に入ったばかりの社員では「そんなこと、誰に聞けばいいのだろう・・」と考えるところから始まる訳です。
そんな時、会社に長く勤めている人であれば、少なくとも「あの人に聞けば手掛かりくらいはつかめるかも・・」といった人脈がある訳です。

この上場プロジェクトには、6~7人くらいのメンバーがいました。
その中の私を含め三人は、私と同じ時期にこの上場プロジェクトのメンバーとして採用されたのですが、上場プロジェクトのコアとして働いていたのは入社20年目くらいのリーダーと、入社10年目くらいの二人のサブリーダーみたいな人でした。
要するに、こういったプロジェクトに新人が活躍する場はあまりないのです。

今になって思うと、「なぜ日系225採用銘柄の会社がNewYork証券取引所に上場するんだろう・・・」と思うんですが、管理部門の仕事って何もイベントがないとあまり変化がない状態になるんですね。
こういったプロジェクトでもないと、管理部門の活躍の場がない状態になるのでは・・と思います。
率直に言って、こういったプロジェクトは管理部門のベテラン社員に喝を入れる意味しかないように感じますがどうなんでしょう。

仕事は作るものだと教わりました

結局この会社には二年弱しか在籍しませんでした。
大きな会計事務所で働きたいとずっと思っておりましたが、四大会計事務所系の税理士法人で働けることになったからです。

最後の送別会の時に上司の方からドキッとするようなことを言われました。
上場プロジェクトが終わった後に手が空くことが多く、休暇を取ることが多くなりました。
休暇の申請書に今思えばバカの一言なのですが、「やることがないので休暇をいただきます。」と書いていました。

上司の方には、これを見て「ショックを受けた」と言われました。
全くその通りで、普通に「私用のため」と書けば良かったのに、ただただすみませんという思いです。

それと同時に「仕事とは自分で作るものだよ」と教えてもらいました。
自分の担当している仕事の改善方法を考えて、企画書を作り、それを実行するのが仕事だと教えられました。

税務署の中では、ただただ割り当てられた仕事を淡々とこなすだけで、そこに改善するといった気持ちはさらさらありませんでした。
また、それまでは労働とはミクロ経済学でいう「労苦」であって、自分で仕事を増やしてどうするんだという思いがありました。
どれだけのサラリーマンがこのように考えているか分かりませんが、日本のサラリーマンはなんて優秀なんだと思いました。

まとめ

私としては、この大企業で働くことに何だか物足りなさを感じていました。
この会社の経理部門では、20年かけて人を育てるような雰囲気があったと思います。
今だったら「なんていい会社なんだ」と思うのですが、当時の自分の中では「役割分担のローテーションもゆっくりだし、ここではあまり成長できないのではないか」なんて考えていました。
税務署には5年勤めていましたが、自分の中ではこの5年が無駄に過ごしてしまった時間のように思われ、あまりのんびりしていられないといった気持ちがありました。

今の自分が、当時の自分にアドバイスをあげることができるとすれば「もっと肩の力を抜いたら・・」というと思います。
同時に土日を全て勉強にあてるなどやりすぎだったかなと思います。
経理部員に求められるものは、最低限仕事をやる上で必要な知識と、誰を知っているという社内人脈の形成であり、それ以上に会計に詳しくなるのは余計なことだったと思っています。
実際に、経理部長という肩書なのに法人税の申告書も書けないような人間にこの後腐るほど会うことになるのですから。

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