大手会計事務所へ転職しましたが・・・不思議な世界でした

はじめに

日本の会計事務所に入るには、超難関な公認会計士試験に受からないと無理だと思っていたのですが、日本に戻ってから二年ほどして、思いがけなく大きな会計事務所に入ることができました。

四大会計事務所系の税理士法人に入社したのですが、入社することができた理由が、前年にエンロン事件というものが起こり、アーサーアンダーセンという大きな会計事務所がなくなったことが原因でした。

エクスパットと呼ばれる海外の親会社から、日本の子会社に出向している方達がいます。
日本人の場合は、日本から一年以上の予定で海外に行ってしまうと、日本を出てからは日本の所得税がかからなくなります。
しかし、アメリカ人の場合は、アメリカからどんなに離れていようとも、アメリカ政府に所得税を支払う義務があるようです。

日本に来ているアメリカ人の方は、アメリカの所得税の申告書も、日本の所得税の申告書も両方提出する必要がある訳です。
日本に来ているアメリカ人の方達が、日本に来てしまったために所得税の金額が増えてしまった場合、会社としてはアメリカにいた時と同じ税負担になるように手当で調整してあげますが、当然この計算は複雑になります。
こんなことができるのは、全世界にネットワークを持つ会計事務所だけであり、その一つのアーサーアンダーセンが消滅してしまったため、他の三つの会計事務所に以前アーサーアンダーセンに仕事を依頼していたお客さんの仕事が入ってきて従業員を増やす必要ができたそうです。

仕事が標準化されていることにびっくりしました

入社すると新人研修が行われるのですが、この時行われるのが申告書を作成する時の元資料を作る方法を細かく指導されます。

税理士法人に入社してびっくりしたのが、結構人の入れ替わりが多いということです。
なぜかは分かりませんが、四大会計事務所をくるくる周ったあと、元の事務所に戻ってくる人もいるようです。
税務署では辞める人など定年退職するくらいであり、そのあと勤めた大企業でも辞める人は一年に一人くらいだったと思います。

しかし、ある従業員が辞めたからと言って、その方が作成した前年の申告書がどのように作られたのか分からないという理由で、今年の申告書の作成に支障が出てはいけない訳です。
そのため、全ての資料の右下に通し番号を書いて、この数字は何ページ目の資料から拾ったものですとか、この資料はお客さんからいただきましたとか、事務所のルールに従って資料にいろいろなメモをしながら申告書を作成していくわけです。

しかし、これはかなり大きな企業でもされていないことが多く、実際、前に勤めていた大企業でも、前任者に聞いても出所が分からない数字がしばしばあって参った経験があります。
自分が作成した資料でも、何もメモをしないと、おそらく三か月もたつと、その資料をどのように作ったのか分からなくなる時がよくあります。
それが一年もたつと記憶のかなたに消えて、自分の筆跡にも関わらず、作成したこと自体を忘れているというあまり歳をとりたくないなと思う事態も普通にある訳です。

あまりにも非効率的な仕事の振り方にびっくりしました

この税理士法人に入ってびっくりしたことの一つは、とっても忙しい人と、とっても暇な人の二種類の従業員がいたことです。
これは、もちろん確定申告時期以外の時です。
確定申告時期に暇を持て余している従業員がいたら流石に事務所がつぶれてしまいます。

今でもこんな仕事の振り方をしているのかは分かりませんが、当時はパートナーと呼ばれる偉い人が仕事をとってくると、そのパートナーは自分の好きなスタッフに仕事を割り振ります。

会計事務所の席の配置は、おおよそ下記のようなもので、パートナーは窓際の景色のいいところに広いスペースをもらえ、他のスタッフ達はパートナーに囲まれるように席が割り当てられます。
下記の灰色の部分はパーテションで、特に偉い役職ではない人の席でもパーテションで区切られており、隣の人と会話をする時には椅子をちょっと引かないと顔を見ることができません。

パートナーが仕事を割り振る基本的なイメージは、真ん中の従業員の群れから必要な人間をつまむようなものになります。

役職は下から、スタッフ、シニアスタッフ、マネジャー、シニアマネージャーとあり、スタッフが時間単価が一番低く、シニアマネージャーが時間単価が一番高くなります。
よって、簡単な仕事をシニアマネージャーにやらせると赤字になる可能性があり、かと言って難しい仕事をスタッフに割り当てると仕事が終わらないといった結果になるので、パートナーは仕事を振る時にこのあたりの単価の計算は最低でもします。

しかし、パートナーは基本的によく知っている人に仕事を振る傾向があり、パートナーと仲良しの人間は仕事が忙しく、パートナーとあまり話す機会もない人間は暇な状態でした。

自分が一時間働いたことに対する請求額にびっくりしました

税務署においても、その後勤めた大企業の経理であっても、お客様にサービスを提供して、その結果お金を請求するということはありませんでした。
しかし、会計事務所では従業員が働いた時間分はお客さんに請求しなければならないというシステムになっています。

私はスタッフという一番下のランクの従業員でしたが、私が一時間働くとお客さんに14,000円請求することになっていました。
これが、海外の事務所から出向してきた青い目のパートナーとなると、一時間当たり50,000円~60,000円くらいの請求額になると思います。

このお金で、事務所の家賃や従業員の給料を賄う必要があるのですが、一番下っ端でも一日8時間働くと10万円以上事務所にお金を運ぶことになるわけです。
これは大きな会計事務所における話であり、確定申告時期以外は一日中お客さんのために働くということは無かったのですが、知識をベースにした商売で信用のある会社の場合は、このくらいのお金を支払ってもらえるお客さんを相手に商売ができる訳です。

パートナーの税務六法が手垢で真っ黒だったのにびっくりしました

この事務所で働く従業員には、毎年税務六法という税法がみんな載っている辞書みたいなものが二冊配られます。
一冊は所得税、法人税、相続税や消費税など基本的な税法が書かれたものであり、二冊目は租税特別措置法という特別法が書かれたものでした。

この税務六法は、硬さはともかく、高さだけでいえば枕にちょうどいいくらいの厚さがあり、普通本棚の飾りとして使われるのでは、と思ってしまう代物です。

私は、事務所では暇な時間が多かったので、消費税と法人税は全部読んでみることにしました。
消費税は条文の数が少ないので、消費税を読み終わった時、数ミリの手垢の線が税務六法の小口のところにつきました。
法人税は条文の数が多いので、消費税の何倍かの太さの手垢の線がつきました。
英語の勉強を辞書を使ってした経験がある方は、どんな状況か想像がつくと思います。

税法と言うものは法律の中でも読むのが難解と言われているようです。
確かに読むのに時間がかかり、読んでいる内に寝落ちしてしまうようなことも無きにしも非ずと言った感じでした。

ある日、あるパートナーに用事があり、パートナーのブースを訪ねることがありました。
パートナーの机の上には、この税務六法が無造作に置いてあったのですが、二冊の税務六法の小口が全て手垢で真っ黒のヨレヨレになっているのを見かけてびっくりしました。

パートナーがお客さんに請求する金額は、ペーペーの私の何倍にもなるのですが、やっぱりそれなりに高くなる理由がある訳です。

監査法人には仕事が無いといって税理士法人に来る人が結構いました

税理士法人には、監査法人から移ってきた公認会計士の方が結構いました。
公認会計士は税理士もできるのですが、監査法人に入れたならば、監査法人にそのままいればいいのではと思っておりました。

ある時、公認会計士の方と仕事をすることがあり、この疑問を投げかけたところ、監査法人は仕事が無かったので移ってきたという話でした。
あんなに仕事が無いのに、今年も結構な数の新入社員をとったみたいだけど大丈夫かなといった話をしていました。

私は学生の頃から監査法人にあこがれを持っていたので、せっかく入った監査法人に自分から出てしまうのはもったいないと思っておりましたが、外からでは分からないことがいろいろあるのでしょう。

まとめ

結局この税理士法人にいたのは二年弱でした。
仕事が無く、暇な時間をつぶすのが、ちょっと耐えられなかったといったところです。
もっと仕事がしたいなと、当時海外の企業買収を繰り返していたベンチャー企業に転職することになり、この税理士法人を去りました。

税理士試験や公認会計士試験に受かっていることが当たり前の職場で、なぜ米国公認会計士試験に受かっただけの人間を雇ったのか、ずっと疑問に思っていました。
職場の満足度調査ではないですが、あるパートナーと話をすることがあり、正直に「仕事もないのになぜ雇われたのか分からない、元の職場に勤めていたらもっと活躍できたはずだ」と話したことがきっかけで仕事が少しもらえるようになりました。

要は、単純に当時の事務所の運営のやり方がまずかったのではないかと思っています。
open workに登録した時に、事務所の様子が今は変わったのか興味本位で口コミを読んでみたところ、ほとんど例外なく忙しいといったコメントだったので、今は状況が変わっていることと思います。

暇だったので、税理士試験を一科目ずつ勉強して取りながら、事務所に居続けることもできたかしれませんが、この事務所を辞めたことをあまり後悔はしていません。
税理士試験に受かるためには、一科目につき200ページくらいの本を丸暗記する必要があり、正直税金の仕事を続けるためにそこまで勉強をする気力がわきませんでした。
税金は企業にとっては一番大きな費用で重要なことは確かですが、申告書を作る会社のことはほとんど知らない状態で、法人税の計算だけするのも何だかなあと思っておりました。

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